刺繍を始めてみたいと思ったとき、
あるいは、思うように進まず手が止まったとき、
「自分は時間がかかりすぎているのでは」と感じたことはないでしょうか。

刺繍は、思っている以上に時間がかかります。
初心者の方には、数週間、数か月で刺し上げたように見える作品でも、
実はその背景に、数年という時間が積み重なっていることがあります。
一針一針にかかる時間だけでなく、
迷った時間、やり直した時間、手を止めた時間。
そうした全てが作品の中に静かに残っています。
本来であればもう少し時間をかけてゆっくりと向き合いたい制作でも、
期限があるものはそうはいきません。
生活の中で刺繍制作を優先し数か月かけて仕上げたあと、
ベテランの先生でさえ、しばらく針を持てない時期が訪れることがあるそうです。
3ヶ月ほど制作から離れる時間が必要だった、という話も聞きました。
そこまで注がれた集中や時間は、
表には見えなくても作品の中に確かにあらわれています。
また、一日の制作目標について尋ねてみると、
刺繍糸ひとかせ分と答えた先生もいました。
ひとかせを使い切るには相応のスピードと集中力が求められます。
それを淡々と日々の目安として語る姿に、
長く続けてきた人ならではの感覚を感じました。
こうして学びを重ねる中で、
技術だけでなく先生方が刺繍とどう向き合っているのか、
その姿勢そのものを教わっているのだと感じるようになりました。
続けている人の姿から、
刺繍は空いた時間でやるものではなく、
時間を確保して続けていくものなのだと感じました。

私自身も、いつの間にかその領域に入っていたのだと思います。
刺繍を続けるために目を労り、体を動かし、時間をつくり、
落ち着いて向き合える環境を整える。
そうして考えていくと、
刺繍の学びと同時に、生活の整え方や自分自身のあり方もまた、
一緒に育てていく必要があるのだと感じています。
刺繍が思うように進まないと感じるとき、
それは才能や向き不向きの問題ではなく、
時間のかかるものにきちんと向き合っている証かもしれません。
自分のペースで続けていい。
そう思えること自体が、刺繍を長く楽しむための大切な力になります。
最後まで読んでくださりありがとうございます♡




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