以下は高齢者支援に関わる飯野雄治さんにご協力いただき、まとめていただいた内容第三弾です。

認知症の症状は、記憶の障害とは限りません。
認知症は脳の萎縮等に起因する障害です。
認知症というと物忘れがひどくなるイメージが強いと思います。
確かに新しいことが覚えられない、同じことを何度も聞いてしまうなどが見られ、これらは記憶障害と呼ばれており、認知症の症状の一つと知っておくべきでしょう。
ただし、それ以外にも障害が起こりうることを知っていないと、実際にはうまく対応できません。
また、自分に起きたときに見逃しやすくなります。
人が分からなくなる、道に迷うなどの症状が多くなることがあります。
これは記憶障害に似ていますが、見当識障害と呼ばれます。
記憶力の低下により道に迷うこともあるかもしれませんが、空間認識がうまくできなくなることがあります。
例えば、人はまっすぐ3分歩いた後に右に曲がり同じく3分くらい歩き、さらに右に同じく3分歩いた後に、さらに右に曲がれば、なんとなく元の場所に戻るだろうとイメージできることがあります。
このように二次元や三次元を把握することが苦手になるために道に迷うというわけです。
生活リズムが乱れるなども見当識障害と言われます。
また、慣れない機械をうまく使えないことが起きやすくなります。
これも記憶障害によるものと理解することもできますが、判断力や理解力の低下と整理されることもあります。
計算が苦手になることも記憶の問題でもありますが、たとえ記憶をメモなどで補ったとしても脳がうまく働かず、理解できないということが起きやすくなります。
さらに、手順良く作業が進められないことは実行機能障害と呼ばれます。
例えばハンバーグを作るという作業を考えても、材料をそろえて刻み、混ぜ合わせて焼くという複雑なプロセスから成り立っています。
この手順を考えるのは、きわめて難しい作業です。これらが当たり前のようにできていた方が、できなくなることがあります。
ハンバーグを作るということ、玉ねぎをみじん切りにし、ミンチ肉と合わせることなどの知識は失われていません。
ただし、何から始めたらいいのか分からなくなるということがあります。
そのような方でも、「まず、この玉ねぎをみじん切りにしておきましょう」と声をかければ、手際よくできることがあります。
このように認知症は記憶障害に似ているけれど、それ以外も起こることを知っておいた方がよいでしょう。
そして、これらが合わさると「作話」や「物取られ妄想」などが起き、これが家族などを苦しめることが多々あります。
例えば、大切にしていた指輪が見当たらなくなった場合、とても不安になりながら最後に使った場面や仕舞うだろう場所をいろいろ当たると思います。
しかし、認知機能が低下し、これらを思い出すことが難しくなった方は、それを考えるという選択でなく、「誰かが盗んだ」と考えることで安心しようとします。特に、物の管理に自信があった方はそうでしょう。指輪を欲しがっていた人などがいた場合、盗まれたと考えることで、心理的な不安はいち早く軽減できます。
このようにして生じるのが物取られ妄想です。
このように家族等が疑われるのはつらいものです。
そして、こうして生じるトラブルが、認知機能の低下によりできなくなることが増えることよりも、家族の心理的な負担となります。
これに対する解決策はありませんが、認知機能が低下した本人に生じているだろう被害妄想を想像し、本人の世界に飛び込んで理解することでアイデアが生まれることが多くなります。
また、先ほどハンバーグの例で出した例のように、記憶に障害が起こりえますが、すべてを一気に失うわけではないということは知っておくとよいでしょう。
つまり、長年にわたり継続した経験から身体で覚えているような習慣的な記憶は失われないということです。
認知症が進み、「酒を飲ませろ」と暴言を吐くようなことも多くなっている方でも、大工の経験があった方は木とノコギリを目の前にすると見事に切ることができることがあります。
そして、木を切っているときは、とてもいい笑顔を見せるものです。
このような記憶を手続き記憶と呼びます。
認知機能が低下した場合でも、本人が経験から培った習慣や記憶を理解し、本人から見える世界を理解して尊重することで、認知症に伴う障害がありながらも、被害妄想などの問題症状が少なくして過ごせるかもしれません。
外出が難しい方であっても、刺繍の経験があれば、針と布を目の前にすると手が動く方もいます。
そんな方は、ご自宅へ講師が訪ねて教えてくれる訪問刺繍を利用してみるとよいでしょう。
刺繍に没頭した経験がある方ならば、以前のような作品は作れないとしても楽しい時間を過ごせるものです。認知機能が低下することと、症状に悩まされることは別なのです。
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